Masuk『ねぇ、ちょっと、聞いてる? もしもーし』
そんな事口にしながらふわふわと俺の周りをまわっている。――人の周りをぐるぐる回るなうっとうしい!
こういうやつもたまにいるから、なるべく目線を合わせないようにしてんのに!心の中でぼやきながらも何もなかったようにして伊織と話をしながら買い物に行こうと歩を進める。
その間も周りをふわふわしながらギャーギャー言っているようだが、まったく相手をせずに……いや、やっぱり多少は気になってしまう。 小さい頃も何度かそのモノ[幽霊」たちの言う事を聞いてあげたり相談に乗ってたりしていたからだ。おかげでほんの些細《ささい》な事から事件になりそうになったことまである。いや、確か一回新聞にニュースとして取り上げられたことがあったような気がするが……まぁ今はいい。 そんなことばかりしていて気づいた事がある。むやみやたらとそのモノたちの言う事、頼みごとを聞いてはいけないということだ。大半はろくなことがない。『こら、ちょっと話ぐらいききなさいよぉ。ゴメンきいてもらえないかな?』
『ね? お願いします!』回り込んできたそのモノがペコっと腰を折るくらいに曲げて懇願してきた。
「ッ!!」
歩みを止めて額に手をあてて考え込んでしまう。 そんな俺を少し離れて歩いていた伊織が少し横を通り過ぎて不思議そうに顔を覗き込んでくる。 「お義兄《にい》ちゃん?」 つくづく俺は俺が嫌になる。守りたい大事なもの存在が近くにいるのにそのモノの話を聞いてあげたいと思ってしまっている自分に腹が立つ。 でもここで無下にしてしまって、伊織にもしもがあってはそれこそ自分が許せなくなるだろう。「ん? あぁ、ちょっと寄りたいトコがあるから、悪い伊織、先に店に行っててくれないか?」
「あ、うん。それは大丈夫だけど、お義兄《にい》ちゃんこそ大丈夫? なんか顔色良くない感じがするけど」――くっそ、俺の勝手な行動にも文句を言わず、ましては俺の心配をしてくれてるなんて、よくできた義妹《いもうと》だなぁ。なのにおれはコイツの話を聞こうとするなんて……。
「ん……大丈夫だよ。悪いなすぐに追いつくから」
わかったぁ~。じゃ後でねぇ~っと言いながら、素直に歩いて店を目指す伊織をその場で見送る。
『へぇ~、ああいう娘《こ》が好み? 彼女さん?』
ま!っというような感じでいつの間にか隣に並んでいたそいつは両手を顔に添えて一緒に伊織を見送っていた。
「な!、ち、違う、妹だ、義妹《いもうと》!」 ぶっ!! と噴き出して慌てて否定する。――俺はともかく、俺の彼女に見られたなんて伊織に失礼だろ。おれはしがない兄貴なんだから……。
「で、話ってなんだよ?」
『あれ? 聞いてくれる気になったの? なんで?』 ふわふわ浮きながらホントにフシギだな? という顔して覗き込んでくる。――あれ? 意外とこいつかわいいかも? 義妹《いもうと》の伊織が清純派だとするとこいつはカワイイ系というか、今時風にまとまってるというか。いかんいかん、頭をぶんぶんと振る。かわいくてもこいつは[幽霊]なのだ。変な気をだしてはいかん。
『どしたの?』
「い、いや何でもない。ここじゃアレだから少し奥に行って話そう」周りを見渡して細い路地をみつけ手招きして「こっちだ」っと歩き出す。
そいつも何も言わずに静かに後を付いてくる。 少し歩くとこじんまりとした公園がある。そこのベンチに腰を降ろして小さなため息をついた。 そのモノはふわふわと浮いて目の前に立つようにして止まる。「で? 相談ってなんだ」
『何そのめんどくさそうな顔』 「だってホントにメンドいんだもん」はぁ~っとまたため息をつく。
『確認してもいいかな? 私の姿が見えてるし、話もできるのよね?』
「そうだけど」 『じゃあ、私以外にも私みたいなモノがみえてるのよね?』 「そうだけど」 『真面目に答えなさいよ! なんかやる気が感じられないんですけど!』はぁ? てな顔に今の俺はなっていると思う。
「正直、めんどくさいしどうでもいい」 『あなた、ほんとにやる気ないわね……まったく、やっと私が見える人が見つかったと思ったのにこんなにやる気のない人だったなんて、しかも若そうだし、頼りなさそうだし……』ブツブツと小さな声で独り言をつぶやいっているようだが、残念ながら俺はそういう事を聞き逃すようには出来ていない。そう簡単に言うとカチーンときた。
「あぁ~そうですか、頼りなく見えましたか。そりゃすいませんね。確かにまだ中学生だからな。んじゃ見える大人な人にでももう一度会えるように祈っててやるよ」
じゃあなっと手をあげて腰を上げその場から離れようとした。もちろん買い物に行く途中だし、先に行かせた伊織も気になるし。『ご、ごめんなさい。ちょ、ちょっと待ってよ!』
ふわふわ浮いていたのが目の前まで来て両腕をいっぱいに伸ばし俺の体を押しとどめようとする。 もちろんいろんな意味でスルーしちゃうんだけど(主に物理的に)、それでもそのモノはまた前に回り込み押しとどめようとする。『ごめんなさい、ホントにもう言いません。話だけでもキイテクダサーイ』
最後ちょっとふざけたか?
『聞いてくれないなら、あんたの義妹《いもうと》にとり憑《つ》くわよ』
――なに?それはマズい。
冷や汗が背中をつたう。前に一度妹は何者かにとりつかれたことがある。それはもう家の中でたいへんなことになった。本人は覚えてないだろうけどあの時も……。[大事な義妹《いもうと》を……伊織を、お前たちに渡してたまるかぁ]
――うーん自分的にも思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしい。もう穴の中に入って暮らしてしまいたいくらいに。
『もしもーし、ねぇちょっと帰ってきてぇ~』
「は!!」 自我復活!「わ、わかったよ、は、話は聞くから。イ、義妹《いもうと》、伊織にとりつくのだけはナシで頼む」
『オッケー。なら約束する。妹ちゃんには今はとりつかないから』 気を取り直して先程まで座っていたベンチに腰を下ろす。この時点で結構体力は消耗してるけど仕方ない。話を聞かなきゃ伊織が危ない。『えと、まずは自己紹介します。私は日比野カレン。私立明興《めいこう》学園中学の三年生です。生きていればだけど……』
――ちっ、お嬢様かよ。「俺は藤堂真司。この近くの中学の三年だ」
『あら、同級生だったの。なら私の事はカレンでいいわ』 「わかったよ日比野さん。俺は……まぁどっちでもいい、好きに呼べよ」俺と同じ歳で[幽霊]になるとは、まだやりたいこともやれるだろうし、未来は広がっていただろうにと、少しかわいそうだなと思う。そのモノたちに対しても同情的に接してしまうことも自分ではダメなことだとはわかっているが、心の底からはそうは思えない自分も確かにいることも事実なのだ。
「で、話ってなんだよ」
『あ、そ、そうね。なんだか話せる相手がいるってわかって忘れてたわ』――おいおいマジかよ……こいつまさかお嬢様学校でもポンコツ系か?
『実は私……』
「あぁ~っと、ちょっと待ってくれ。一応話は聞くって言ったけど、こっちからも断っておくぞ。俺は確かに君たちみたいなモノを見たり、話せたりはするけど成仏とか、天国とかに送ったりすることはできないからな」 真面目な顔をカレンに向けながら話す。カレンは「わかった」と言ってうなずいた。しかもこれだけは言っておかなければいけないことがある。 「しかも、俺はお前たちのようなモノが好きじゃないし、慣れてるわけじゃないからな!」『私だって……私だって好きでこんなモノになったわけじゃない! それに言っておきますけど、私はまだ生きてるはずですぅ!』
――何言ってんのかなこの娘は? その状態になってまで生きてるってことはまずない。まぁたまに死んだ事が信じられなくてさまよい続けてるやつもいるけど。考えられるとすればそれは……。「え!? なに、もしかして生き霊さんですか? あれ? 体から離れちゃったはいいけど戻れなくなった系? それとも自分から生きて霊になっちゃった系?」
うわぁ~って感じの生暖かい視線でカレンを見る。 すると霊体だから赤くなってるかはイマイチわからないけど、急に俺のいる周りが寒くなってきたのでチョット怒りモードになっていることがわかる。『ちーがーいーまーすー! なっちゃった系とかそんなんじゃなくて、真面目に聞いてよ!』
「はい」 冷気に押されて素直にうなずく。『よし! では説明するね。一週間前くらいかなぁ、いつものように授業が終わって帰ろうとしてたのよ。で、校門のところで友達から声を掛けられて普段では使わない学校からの帰り道を二人並んで歩いてたわ』
「へ~、お嬢様って豪華な車で毎日送迎とかしてもらってるんじゃないのか?」 ちょっと真面目な話になりそうだったので少し軽口をたたく。『普段から毎日じゃないわよ。それに送迎されてもらってるのは、本当にお嬢様って感じの人たちだけよ』
そう言ったカレンが俯いて、顔が少し困ったような、怒っているようなそんな表情を一瞬だけした。それからすぐに俺の方に向き直って続きを話し始める。 『でね、私は途中の駅で電車に乗らないといけないから友達と別れて駅に向かって、数分で駅について電車を待って、乗らなきゃいけない時間になったからホームに歩いて行ったわ』 そこまで話し終えるとカレンは一息つくようにため息を漏らす。『そこから、そこから記憶がないの。ううん気が付いたらこんな姿であの場所でずっと立ってた。助けてって話しかけたり、つかもうとしてすり抜けたり、毎日続いてたの』
この娘は、もしかしたらそのホームから落ちて亡くなってしまっているのかもしれない。でもその前後があいまいなせいでそれが受け入れられず、こうしてさ迷い歩いている。そう考えた俺はやっぱり悲しくなった。自分の死は受け入れられないにしても、自分の体に戻してあげたいと思った。
「じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
もちろん体に戻りたいというのであれば探せないわけじゃない。 ――あれ? 待てよ? でもそれならば自分でふわふわと行けるはず。もしそこで死んだならばこの娘は駅にいなければおかしい。『私は死んでない。ぜったいに。だって自分の温かさを感じてるもの。だからお願い、私の体を一緒に探してほしいのよ』
そして俺は頭を抱えることになる。
「それで?」
『え? それでってなに?』 「いやだから、君の体を探すのはいい。百歩譲って亡くなってない事にしょう。で、探してあったなら良かったなぁってなるけど、なかったらどうするの? 俺はまだ中学生だよ? できることも行ける範囲も限られるのに……」 やるだけやってみようというような軽い気持ちには到底なれない内容だった。だからこそ、その後の事を考えておかねばならない。『そうねぇ、マズは生きてるって事を君が信じてない事には今は目をつむることにして、まずは探してくれるだけでもありがたいわ』
――あぁ~やっぱり関わらなきゃ良かったな。そしてやっぱりお嬢様だ。こちらの都合は考えてないみたいだしな。「俺にメリットは?」
『メリット?』 「そうだろう? メリットがなきゃ何で初めましての幽霊ちゃんに従って、あるかないかもわからない体を探さなきゃならない?」 『!? ……確かに、それもそうよね』 ――だろ?そりゃかわいそうだとは思うけど、初めて会った幽霊ちゃんに義理はない。まして今は妹を先に行かせたままの買い物の道中なのだし。伊織を待たせたままなのは凄く気が引ける。それにたぶんその願い事に付き合うことになったら一日や二日では到底難しいだろう。だからこそ俺じゃない誰かを頼ってほしい。まだ中学生の俺には何も力はないのだ。
『わかったわ』
「へ?」 『わかった。たぶん当分はかかるでしょう、その間私はあなたにできるだけ協力する。そばを離れずに』 「おまっ!!」――ぜんぜんわかってねぇ!! やっぱこの子はお嬢様だった!!
『それからもう一つ』
「なんだよ?」 俺は帰りたくなっていたのだけど、多分ついてくるなと言っても、この手のタイプには通用しないだろうと諦めてため息をつく。『もし、無事に身体があって、元に戻ることができたら……シンジ君、あなたの彼女になってあげるよ』
ニコッとはにかむカレン「ぶふぉっ!! お、おまえ、何言ってんだよ!!」
――ニコッとなんて俺にしてんじゃねよ!!かわいいなって思っちまったじゃねかよ。幽霊なのに。ほんとに幽霊なのか?『だって、いないんでしょ? カ・ノ・ジョ』
焦る顔を見られたくないから、飛ぶくらいの勢いで座っていたベンチを後にする。「あぁ~、とその、わ~ったよ。探すの手伝ってやるよ」
『ほんと?! ほんとに探してくれるの?』 「ああ、そのかわり伊織には手を出すなよ?それが条件だ」 『やったぁ!! やっぱりシンジ君優しいね。思い切って声かけてよかったぁ!!』本当に嬉しそうに鼻歌交じりに上機嫌についてくるカレン。
頼みを引き受けた理由……。カレンのことがかわいそうだと思ったこと。まぁ同情心ってやつが湧いて来たってのもあるし、そのルックスや「彼女」という言葉に下心が動いたのも間違いじゃない。 でもそれ以上に感じたこと。今まで出会ってきたそのモノ達はすべてとは言わないが、ほぼ後ろ暗い感情で沈んだモノたちしか居なかった。しかしカレンは全開で前向きである。そう見えるだけかもしれないけど、彼女からは特有の感情が感じられなかった。 だから俺は本心では関わりあいたくないと思っても、母さんの言葉を思い出して彼女の前向きさに役に立てたらいいなって……そう思ったんだ。『ところでシンジ君、義妹《いもうと》ちゃんのこと好きなの?』
「お前、何言ってくれちゃってんのかな?」 彼女を威嚇《いかく》するように目を細めてジッと見つめる 『違うの? なら大丈夫ね』 「何が大丈夫なんだよ?」 『なんでもなーい』くすくす笑いながらやっぱりふわふわと後をついてくる
「義妹《いもうと》には何もするなよ?」
『もし何かしたら?』 「成仏させる」 『でぇきないくせにぃ~』 あはははぁ~と笑うカレン ――くそっ! やっぱりかかわらなきゃよかった!!買い物予定のお店の前でショルダーバッグを下げて待っている伊織を見つける。こちらに気づいた伊織がぶんぶんと手を振ってくれた。
自然と駆け出す俺。
仲のいい兄妹に戻った瞬間だが、先ほどまでとは違い俺の後ろにはふわふわ浮いたカレンがいる。伊織が見えていないことを心の中で祈るしかなかった。俺と伊織はというと――。 皆が一生懸命にしめ縄の作業をしている様子を見つつ、婆ちゃんと共に、柏木様の元へと足を運んでいた。 柏木様と言っても、已然の場所で雄大な姿を見せていたあの柏木様ではなく、初代様に託されたあの『若い柏木様』の事。 あれから少しばかり成長をした若い柏木様を、婆ちゃん達が大社へと運んできて、元の柏木様がそびえていた場所のまたその奥の場所へ、新たな門として植えたのだ。もちろんそこには依然と同じような小さな祠が祭られているし、新たな柏木様の周囲には既に新たなしめ縄が周囲を囲むようにして結び付けられている。「また少し大きくなられた様じゃの」「うん。背が伸びた気がするね」「うん」 柏木様を前にしてその様子を伺う。「婆ちゃん」「なんじゃの?」「あの柏木様はどうなるの? 伐採しちゃうの?」「いんや伐採などはせん。というよりもじゃ……」 少し言いよどむ婆ちゃん。「ここ最近は元気がなくなってきとる」「え? そうは見えないけど……」「いや。段々と蝕まれてきて来ておるのは間違いない、その証拠に根元が枯れ始めとるからの」「捜査のせい?」「うぅ~ん。まったく関係がないとは言い切れんの。周囲の土を掘り起こしたままで現場検証などに時間をくってしまったからの。じゃが本質は違うの。やはり今までの負担が大きく影響しとるんじゃろうの」「……そうか」「…………」 今まで頑張って来てくれた柏木様。しかしそう遠くない未来には、その雄大な姿は見られなくなってしまうだろう。 そう考えると段々と寂しさや悲しさが込み上げてくる。 それは伊織も同じだったようで、自然と両手を汲んで祈りを捧げていた。「さて、当分の間はここに来るのも終いじゃの」
もうすぐ雪が降り始めるかのように、どんよりとした灰色の雲が空を覆い、時折漏れる吐息が白い煙のように立ち上る朝。 俺と伊織、そして婆ちゃんと爺ちゃん達と共にまた大社へと赴いていた。前日まではその麓にあるキャンプ場にて一泊し、次の日の早朝から長い階段を登り始めたのだけど、朝が早いという事と思った以上に冷気が空から降りてきている影響で、俺は体を動かすのがやっとというような有様。「ねぇ!! あそこに何かいるわよ!!」「もう!! 静かに昇りなさいよ夢乃!!」「えぇ~いいじゃん!! ようやくこうして皆でちょーじょーにある大佐様? のところへいけるようになったんだもん!!」 俺達一行の後を追うように、研究会の皆が石段を登ってきている。その中でも相馬さんが一番元気がいい。 キャンプ場での手伝いなどがあり、早朝からの仕事などもあるため、割と朝早い時間に目覚めるという事は慣れていると胸を張って言い切っていただけの事は有る。「色々違ってますよ相馬さん」「そねぇ……。まずは大佐様ではなく大社ですしぃ、向かって行くのはその大社ではなく柏木様のところですよぉ?」 運動することは苦手なので階段を登るのに苦労するかもなんて、少し苦笑いしつつ昇り始めた市川姉妹だったけど、ここまでは特に疲れなどの変化は見られない。「柏木様って伊織ちゃん!?」「え!? は、はい!! なんでしょうか!?」――柏木様ってそうじゃないよ相馬さん。まぁ確かに伊織は元柏木さんだけどね。伊織も今は藤堂さんなわけだから返事をするんじゃない!! などと心の中でツッコミを入れるが、俺は既にここ何度目かの階段上りとなっているので、飽きているというのと朝早いのとが合わさって言葉にする元気もない。 そうなのだ。俺と伊織はここ最近土日になると婆ちゃんの所へと行っていたというのはもちろんだけど、大社周りをかたづけたり、更に元に戻す事や掃除などをする為に何度か大社へと足を運んでいる。 初めは体力があったの
さて、忙しかったのは俺というわけではなく、婆ちゃんであり伊織なのだが、あの後どうなったのかというと、婆ちゃんの宣言通りに伊織は『今代の柏木様』としてあの土地の、大社の、そして柏木様の守り手として責務に就くことになったのである。責務と入っても今までとあまり変わった事はない。 日常は俺達と一緒に暮らすのだけど、土日や空いた日などは婆ちゃんの所へといき、心構えなどを教わってくるもの。本格的に巫女様になるのは早くても伊織が高校生になってからくらいになると、婆ちゃんが言っていた。実は今代の巫女様には義母さんが――という話も出てきてはいた。何しろ義母だって柏木様の血を継いでいるという事が分ったからだ。「私が?」 「うん。そうなのよ。お母さんも柏木様の血を継いでいるんだけど、巫女様になる?」 「うぅ~ん……。ちょっとあの衣装には憧れちゃうけど、私は巫女ってタイプじゃないし、今のままでいたいかなぁ。それに私には視えないわけだし。それだけでも巫女様になる資格? はないと思うのよ」 「そうかなぁ? もしかしたらこれから「それは無理じゃの」」「お婆ちゃん」 「お義母様……」 ようやく取れた日曜日に、伊織と共に母さんの実家へと赴いた伊織と義母は、大社様と柏木様、そして巫女様の事についての話を婆ちゃんから聞いていた。 その話の中に出て来た、村から出た柏木様一族の話しが、以前義母さんが幼い頃に聞かされつつ育ってきた話と同じような内容だったことで、出身地が間違いないと判断し伊織が義母さんに今代の巫女について「なったら?」と持ち掛けたのだ。しかし話の通りに婆ちゃんに即『無理』とバッサリ切って捨てられた。「そうですよねぇ。私には伊織や真司の様なチカラは有りませんから、これかたなろうなんて甘いですよね」 「そういう事じゃないんじゃの」 婆ちゃんが義母の話を聞きつつ、お茶を一口すする。「確かに『視える』という事は一番大事なのじゃがの、それにもましてその者達とどう向き合えるかが大事なのじゃの。もしかし
事件というモノは何処からともなく漏れ聞こえてしまうようで――あの日、俺達の頭の上を何度も何度も行き来していたヘリからの映像と共に、テレビでもインターネット上でも色々と曰くや話題付きという、尾ひれがでっかくなった状態で拡散されていた。まぁ実際の所、事件はけっこう大きなもので、発見されたご遺体の数は類を見ない程多く、単に事件というだけではなく、古くからのお骨なども発見され、そして同じように埋葬されていた所からは年代物と思われる服飾品類などの埋葬品や、土器、催事の時に使用していたであろう動物の骨などが入った木箱や杖なども、考古学者や研究者などの関心を集め、警察の捜査が終了したと共に、今度のはそれらを更に研究するための現地調査が入っている。俺達が住んでいる場所はもうすぐ雪が降り始めるので、それまでには何かしら新たな発見をし来年以降の調査の足掛かりにしたいと意気込んでいるらしい。そんな話を、研究者の一人である大学教授に熱弁されたと、久しぶりに家に帰って来てリビングでビールを煽っている父さんが愚痴交じりに語っていた。「ところで真司」「なに?」「お前表彰される気あるか?」「はぁ? 表彰!? 表彰てなんだよ?」「今回の事でかなり捜査に内々で『ご協力』してくれた形になっているだろ? それをあの町のお偉いさんが気にしててな。真司に表彰の1つでもやらなきゃメンツにかかわるとか何とかいってやがるみたいなんだよ」「えぇ~……。いいよメンドクサイ」「まぁそうだよなぁ……」 父さんは手に持っている缶ビールを一気に煽る。「そういうのを貰うのなら一番うってつけの人がいるじゃないか」「ん? だれだ?」「婆ちゃんだよ」「あぁ、お義母さんかぁ。そうだなぁ……」「そうそう。あの町では婆ちゃんの名前って知れてるんでしょ? それなら婆ちゃんに渡した方がそれらしいと思うんだけど」「確かにそうだ
「ようやっと来たかの」「お待たせ婆ちゃん」「どうじゃったかの?」「実は初代様にも手伝ってもらえたから、多くの方を見つけることが出来たよ」「ほうか。それはよかったの」「これから?」「うむ。ここがやはり一番大事な所じゃからの。そうじゃ初代様が居りなさるんじゃから、どの辺におられるのか教えてもらえるかの?」「わかった聞いてみるよ」 俺は今もずっと柏木様の事を見あげている初代様に話かける。『え? 私ですか?』「はい。初代様はどの辺におられるのでしょうか?」『えぇ~っと、確か私はですね、若木の時に御一緒したので……』 そう言いつつも初代様がふよふよと移動を始めた。そして少しばかり柏木様に近づき、周囲を回り始めとある場所でその動きを止め、スッと根本へと指を差す。『ここに、見えますか? 小さなお社があると思うんですが、その下に私はいると思います』「そこですね。わかりました」 初代様に聞いた事をそのまま近くにいたお付きの警察官の方へと伝え、その方が走り出して指揮官の男性の元へとたどり着くと、話を聞いた指揮官さんとともに、道具類を持った警察官の方々が一斉に向かってくる。「ありがとう真司君と伊織さん。ここから先は我々のお仕事だから任せて休みなさい」「え、でも……。いえ分かりました。ではテントで休ませてもらいます」「お義兄ちゃん?」 くいっと袖を引っ張られ、それに俺はこくりと頷いて応える。「でも、その……発見するまでは俺達もまだ残ってます」「え? あぁ……うん。わかったよ。それまで休んでなさい」「はい。失礼します」 俺の意を汲んでくれた指揮官の男性。俺の肩へとポンと軽く叩くと、声を上げその指揮の元木の根元の捜索が開始された。 初代様発見の報はそ
「初代様!?」『こんにちは』『やっはっろ~』 初代様は初めてお会いした時と同じようににこやかに、そして母さんは――まぁいつもの様にそこに現れた。「どうしたんですか!?」「何かありましたか!?」 俺達に付いて来てくれている警察官の方が、俺が大きな声を出した事で慌てて駆けよって来てくれた。そして俺たち二人の側までたどり着くとすぐに周囲の警戒をしてくれる。「あ、す、すみません!!」「何かあったんですか!?」「あぁ……いえ。その……」「何でも言ってください。出来る事なら何でもしますので。襲われたりした時は我々が肉壁となってでもお二人の事はお守りしますので!!」――いや、重くね? なにこの人達……。肉壁って何だよ……。何でそこまでしてくれんのかいまいちわからん。 俺と伊織の気持ちと、警察官さん達の気持ちとの間に、どうやら俺たちの知らないそれこそ『壁』のような物を感じる。「言いにくいんですが大丈夫ですよ」「そ、そうですか? 一体何があったんです? 出来る限り報告しておかないといけませんので」「そ、そうですか……。えぇ~っと以前ここに来た時にお見かけした|霊《ひと》が現れたもので、ちょっと驚いてしまっただけです。すみません」「以前ここに来た時というと……、巫女様と一緒にここに来た時ですね?」「えぇそうです。え? 巫女様って……」 警察官の方の言い方にちょっとした違和感があったので、その方が口にした言葉を繰り返していた。「あぁ、なるほど……。もしかして我々がどうしてお二人の事をここまで――と思ってますか?」「はい。実は少しだけ」「そうですか。まぁそうですよね」 警察官さん達はお互いに顔を見合