『ねぇ、ちょっと、聞いてる? もしもーし』
そんな事口にしながらふわふわと俺の周りをまわっている。――人の周りをぐるぐる回るなうっとうしい!
こういうやつもたまにいるから、なるべく目線を合わせないようにしてんのに!心の中でぼやきながらも何もなかったようにして伊織と話をしながら買い物に行こうと歩を進める。
その間も周りをふわふわしながらギャーギャー言っているようだが、まったく相手をせずに……いや、やっぱり多少は気になってしまう。 小さい頃も何度かそのモノ[幽霊」たちの言う事を聞いてあげたり相談に乗ってたりしていたからだ。おかげでほんの些細《ささい》な事から事件になりそうになったことまである。いや、確か一回新聞にニュースとして取り上げられたことがあったような気がするが……まぁ今はいい。 そんなことばかりしていて気づいた事がある。むやみやたらとそのモノたちの言う事、頼みごとを聞いてはいけないということだ。大半はろくなことがない。『こら、ちょっと話ぐらいききなさいよぉ。ゴメンきいてもらえないかな?』
『ね? お願いします!』回り込んできたそのモノがペコっと腰を折るくらいに曲げて懇願してきた。
「ッ!!」
歩みを止めて額に手をあてて考え込んでしまう。 そんな俺を少し離れて歩いていた伊織が少し横を通り過ぎて不思議そうに顔を覗き込んでくる。 「お義兄《にい》ちゃん?」 つくづく俺は俺が嫌になる。守りたい大事なもの存在が近くにいるのにそのモノの話を聞いてあげたいと思ってしまっている自分に腹が立つ。 でもここで無下にしてしまって、伊織にもしもがあってはそれこそ自分が許せなくなるだろう。「ん? あぁ、ちょっと寄りたいトコがあるから、悪い伊織、先に店に行っててくれないか?」
「あ、うん。それは大丈夫だけど、お義兄《にい》ちゃんこそ大丈夫? なんか顔色良くない感じがするけど」――くっそ、俺の勝手な行動にも文句を言わず、ましては俺の心配をしてくれてるなんて、よくできた義妹《いもうと》だなぁ。なのにおれはコイツの話を聞こうとするなんて……。
「ん……大丈夫だよ。悪いなすぐに追いつくから」
わかったぁ~。じゃ後でねぇ~っと言いながら、素直に歩いて店を目指す伊織をその場で見送る。
『へぇ~、ああいう娘《こ》が好み? 彼女さん?』
ま!っというような感じでいつの間にか隣に並んでいたそいつは両手を顔に添えて一緒に伊織を見送っていた。
「な!、ち、違う、妹だ、義妹《いもうと》!」 ぶっ!! と噴き出して慌てて否定する。――俺はともかく、俺の彼女に見られたなんて伊織に失礼だろ。おれはしがない兄貴なんだから……。
「で、話ってなんだよ?」
『あれ? 聞いてくれる気になったの? なんで?』 ふわふわ浮きながらホントにフシギだな? という顔して覗き込んでくる。――あれ? 意外とこいつかわいいかも? 義妹《いもうと》の伊織が清純派だとするとこいつはカワイイ系というか、今時風にまとまってるというか。いかんいかん、頭をぶんぶんと振る。かわいくてもこいつは[幽霊]なのだ。変な気をだしてはいかん。
『どしたの?』
「い、いや何でもない。ここじゃアレだから少し奥に行って話そう」周りを見渡して細い路地をみつけ手招きして「こっちだ」っと歩き出す。
そいつも何も言わずに静かに後を付いてくる。 少し歩くとこじんまりとした公園がある。そこのベンチに腰を降ろして小さなため息をついた。 そのモノはふわふわと浮いて目の前に立つようにして止まる。「で? 相談ってなんだ」
『何そのめんどくさそうな顔』 「だってホントにメンドいんだもん」はぁ~っとまたため息をつく。
『確認してもいいかな? 私の姿が見えてるし、話もできるのよね?』
「そうだけど」 『じゃあ、私以外にも私みたいなモノがみえてるのよね?』 「そうだけど」 『真面目に答えなさいよ! なんかやる気が感じられないんですけど!』はぁ? てな顔に今の俺はなっていると思う。
「正直、めんどくさいしどうでもいい」 『あなた、ほんとにやる気ないわね……まったく、やっと私が見える人が見つかったと思ったのにこんなにやる気のない人だったなんて、しかも若そうだし、頼りなさそうだし……』ブツブツと小さな声で独り言をつぶやいっているようだが、残念ながら俺はそういう事を聞き逃すようには出来ていない。そう簡単に言うとカチーンときた。
「あぁ~そうですか、頼りなく見えましたか。そりゃすいませんね。確かにまだ中学生だからな。んじゃ見える大人な人にでももう一度会えるように祈っててやるよ」
じゃあなっと手をあげて腰を上げその場から離れようとした。もちろん買い物に行く途中だし、先に行かせた伊織も気になるし。『ご、ごめんなさい。ちょ、ちょっと待ってよ!』
ふわふわ浮いていたのが目の前まで来て両腕をいっぱいに伸ばし俺の体を押しとどめようとする。 もちろんいろんな意味でスルーしちゃうんだけど(主に物理的に)、それでもそのモノはまた前に回り込み押しとどめようとする。『ごめんなさい、ホントにもう言いません。話だけでもキイテクダサーイ』
最後ちょっとふざけたか?
『聞いてくれないなら、あんたの義妹《いもうと》にとり憑《つ》くわよ』
――なに?それはマズい。
冷や汗が背中をつたう。前に一度妹は何者かにとりつかれたことがある。それはもう家の中でたいへんなことになった。本人は覚えてないだろうけどあの時も……。[大事な義妹《いもうと》を……伊織を、お前たちに渡してたまるかぁ]
――うーん自分的にも思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしい。もう穴の中に入って暮らしてしまいたいくらいに。
『もしもーし、ねぇちょっと帰ってきてぇ~』
「は!!」 自我復活!「わ、わかったよ、は、話は聞くから。イ、義妹《いもうと》、伊織にとりつくのだけはナシで頼む」
『オッケー。なら約束する。妹ちゃんには今はとりつかないから』 気を取り直して先程まで座っていたベンチに腰を下ろす。この時点で結構体力は消耗してるけど仕方ない。話を聞かなきゃ伊織が危ない。『えと、まずは自己紹介します。私は日比野カレン。私立明興《めいこう》学園中学の三年生です。生きていればだけど……』
――ちっ、お嬢様かよ。「俺は藤堂真司。この近くの中学の三年だ」
『あら、同級生だったの。なら私の事はカレンでいいわ』 「わかったよ日比野さん。俺は……まぁどっちでもいい、好きに呼べよ」俺と同じ歳で[幽霊]になるとは、まだやりたいこともやれるだろうし、未来は広がっていただろうにと、少しかわいそうだなと思う。そのモノたちに対しても同情的に接してしまうことも自分ではダメなことだとはわかっているが、心の底からはそうは思えない自分も確かにいることも事実なのだ。
「で、話ってなんだよ」
『あ、そ、そうね。なんだか話せる相手がいるってわかって忘れてたわ』――おいおいマジかよ……こいつまさかお嬢様学校でもポンコツ系か?
『実は私……』
「あぁ~っと、ちょっと待ってくれ。一応話は聞くって言ったけど、こっちからも断っておくぞ。俺は確かに君たちみたいなモノを見たり、話せたりはするけど成仏とか、天国とかに送ったりすることはできないからな」 真面目な顔をカレンに向けながら話す。カレンは「わかった」と言ってうなずいた。しかもこれだけは言っておかなければいけないことがある。 「しかも、俺はお前たちのようなモノが好きじゃないし、慣れてるわけじゃないからな!」『私だって……私だって好きでこんなモノになったわけじゃない! それに言っておきますけど、私はまだ生きてるはずですぅ!』
――何言ってんのかなこの娘は? その状態になってまで生きてるってことはまずない。まぁたまに死んだ事が信じられなくてさまよい続けてるやつもいるけど。考えられるとすればそれは……。「え!? なに、もしかして生き霊さんですか? あれ? 体から離れちゃったはいいけど戻れなくなった系? それとも自分から生きて霊になっちゃった系?」
うわぁ~って感じの生暖かい視線でカレンを見る。 すると霊体だから赤くなってるかはイマイチわからないけど、急に俺のいる周りが寒くなってきたのでチョット怒りモードになっていることがわかる。『ちーがーいーまーすー! なっちゃった系とかそんなんじゃなくて、真面目に聞いてよ!』
「はい」 冷気に押されて素直にうなずく。『よし! では説明するね。一週間前くらいかなぁ、いつものように授業が終わって帰ろうとしてたのよ。で、校門のところで友達から声を掛けられて普段では使わない学校からの帰り道を二人並んで歩いてたわ』
「へ~、お嬢様って豪華な車で毎日送迎とかしてもらってるんじゃないのか?」 ちょっと真面目な話になりそうだったので少し軽口をたたく。『普段から毎日じゃないわよ。それに送迎されてもらってるのは、本当にお嬢様って感じの人たちだけよ』
そう言ったカレンが俯いて、顔が少し困ったような、怒っているようなそんな表情を一瞬だけした。それからすぐに俺の方に向き直って続きを話し始める。 『でね、私は途中の駅で電車に乗らないといけないから友達と別れて駅に向かって、数分で駅について電車を待って、乗らなきゃいけない時間になったからホームに歩いて行ったわ』 そこまで話し終えるとカレンは一息つくようにため息を漏らす。『そこから、そこから記憶がないの。ううん気が付いたらこんな姿であの場所でずっと立ってた。助けてって話しかけたり、つかもうとしてすり抜けたり、毎日続いてたの』
この娘は、もしかしたらそのホームから落ちて亡くなってしまっているのかもしれない。でもその前後があいまいなせいでそれが受け入れられず、こうしてさ迷い歩いている。そう考えた俺はやっぱり悲しくなった。自分の死は受け入れられないにしても、自分の体に戻してあげたいと思った。
「じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
もちろん体に戻りたいというのであれば探せないわけじゃない。 ――あれ? 待てよ? でもそれならば自分でふわふわと行けるはず。もしそこで死んだならばこの娘は駅にいなければおかしい。『私は死んでない。ぜったいに。だって自分の温かさを感じてるもの。だからお願い、私の体を一緒に探してほしいのよ』
そして俺は頭を抱えることになる。
「それで?」
『え? それでってなに?』 「いやだから、君の体を探すのはいい。百歩譲って亡くなってない事にしょう。で、探してあったなら良かったなぁってなるけど、なかったらどうするの? 俺はまだ中学生だよ? できることも行ける範囲も限られるのに……」 やるだけやってみようというような軽い気持ちには到底なれない内容だった。だからこそ、その後の事を考えておかねばならない。『そうねぇ、マズは生きてるって事を君が信じてない事には今は目をつむることにして、まずは探してくれるだけでもありがたいわ』
――あぁ~やっぱり関わらなきゃ良かったな。そしてやっぱりお嬢様だ。こちらの都合は考えてないみたいだしな。「俺にメリットは?」
『メリット?』 「そうだろう? メリットがなきゃ何で初めましての幽霊ちゃんに従って、あるかないかもわからない体を探さなきゃならない?」 『!? ……確かに、それもそうよね』 ――だろ?そりゃかわいそうだとは思うけど、初めて会った幽霊ちゃんに義理はない。まして今は妹を先に行かせたままの買い物の道中なのだし。伊織を待たせたままなのは凄く気が引ける。それにたぶんその願い事に付き合うことになったら一日や二日では到底難しいだろう。だからこそ俺じゃない誰かを頼ってほしい。まだ中学生の俺には何も力はないのだ。
『わかったわ』
「へ?」 『わかった。たぶん当分はかかるでしょう、その間私はあなたにできるだけ協力する。そばを離れずに』 「おまっ!!」――ぜんぜんわかってねぇ!! やっぱこの子はお嬢様だった!!
『それからもう一つ』
「なんだよ?」 俺は帰りたくなっていたのだけど、多分ついてくるなと言っても、この手のタイプには通用しないだろうと諦めてため息をつく。『もし、無事に身体があって、元に戻ることができたら……シンジ君、あなたの彼女になってあげるよ』
ニコッとはにかむカレン「ぶふぉっ!! お、おまえ、何言ってんだよ!!」
――ニコッとなんて俺にしてんじゃねよ!!かわいいなって思っちまったじゃねかよ。幽霊なのに。ほんとに幽霊なのか?『だって、いないんでしょ? カ・ノ・ジョ』
焦る顔を見られたくないから、飛ぶくらいの勢いで座っていたベンチを後にする。「あぁ~、とその、わ~ったよ。探すの手伝ってやるよ」
『ほんと?! ほんとに探してくれるの?』 「ああ、そのかわり伊織には手を出すなよ?それが条件だ」 『やったぁ!! やっぱりシンジ君優しいね。思い切って声かけてよかったぁ!!』本当に嬉しそうに鼻歌交じりに上機嫌についてくるカレン。
頼みを引き受けた理由……。カレンのことがかわいそうだと思ったこと。まぁ同情心ってやつが湧いて来たってのもあるし、そのルックスや「彼女」という言葉に下心が動いたのも間違いじゃない。 でもそれ以上に感じたこと。今まで出会ってきたそのモノ達はすべてとは言わないが、ほぼ後ろ暗い感情で沈んだモノたちしか居なかった。しかしカレンは全開で前向きである。そう見えるだけかもしれないけど、彼女からは特有の感情が感じられなかった。 だから俺は本心では関わりあいたくないと思っても、母さんの言葉を思い出して彼女の前向きさに役に立てたらいいなって……そう思ったんだ。『ところでシンジ君、義妹《いもうと》ちゃんのこと好きなの?』
「お前、何言ってくれちゃってんのかな?」 彼女を威嚇《いかく》するように目を細めてジッと見つめる 『違うの? なら大丈夫ね』 「何が大丈夫なんだよ?」 『なんでもなーい』くすくす笑いながらやっぱりふわふわと後をついてくる
「義妹《いもうと》には何もするなよ?」
『もし何かしたら?』 「成仏させる」 『でぇきないくせにぃ~』 あはははぁ~と笑うカレン ――くそっ! やっぱりかかわらなきゃよかった!!買い物予定のお店の前でショルダーバッグを下げて待っている伊織を見つける。こちらに気づいた伊織がぶんぶんと手を振ってくれた。
自然と駆け出す俺。
仲のいい兄妹に戻った瞬間だが、先ほどまでとは違い俺の後ろにはふわふわ浮いたカレンがいる。伊織が見えていないことを心の中で祈るしかなかった。数時間後――。「え~っとだな……」 集まったメンバーを見回しながら俺は固まっていた。なぜならそこにはいつものメンバー以外の人がいたからなのだが、なんというかその……華やかなのだ。――というか、いつの間にか人多くねぇぇぇぇぇ!? いつものメンバー五人に、三和・遠野・妻野までいるし。さらになぜか正晴までいる。一番危ないって分かってんのかなコイツと心の中で独り言ちる。「何で、こんなに多いの?」 俺は率直な疑問を五人の方に向けた。「ええと、玲子にあの後連絡したら、遠野さんと妻野さんもその神社に興味あるっていうから、じゃぁ一緒にどう? って話になって、こんな感じかな?」 相変わらずのんびり屋さんっぷりの響子が俺の方にウインクする。「はぁぁぁ~」 先が思いやられてため息が出た。「じゃぁ、そろそろ時間だから行くけどいいかな?」「「「はぁ~い」」」「「「いいよぉ」」」「よっしゃ!!」 なんだろう。なにか複雑な気分だなこれ。 バス停に向けて歩き出した女子組の後を男子2人が付いていく。「なぁ~、真司」「なんだよ?」「どの娘《こ》がお前のカノジョなの?」「はぁぁぁ!?」「とぼけんなって! いるんだろ?」「い、いやいねぇし!! そもそもいたらそんな湖なんか怖くて行けないからな!! つうか、お前が一番気をつけなきゃなんねぇんだからな!! 普通来ないぞ!! お前バカなの!!」 息を切らせながら正晴に否定する。「わかった!! わかったから!! で、どの娘《こ》なん?」――ぜんぜん分かってねぇなぁコイツゥゥゥゥ!! 今日の行き先にとてつもなく不安がよぎっていく。 バスの中ではもう完全に遠足状態だった。 きゃいきゃいと女子組がはしゃぎながら最後尾を独占している。 俺はもう何かを言うのをやめた。だ
仲がいい二人が部活があるって出ていった後の喫茶店内にて、新たな行動計画を立てることになった。「今回の元凶は間違いなくソッチなのね?」 大きく一つため息をつくカレン。「ああ、あのおじさんが言ってた事が気になって調べたんだ。間違いはないと思う」 コーヒーをクチに運びながら話す。「じゃなまたみんなであの湖に行かなきゃね」「そうねぇ、しかも縁結びの神社なら一度は行っておかなきゃでしょう」 と理央アンド響子姉妹。「絶対に一緒に行きます!!」 むんっ!! と両手を握りしめ気合が入る伊織。「え~っと、この五人で行くって事で決定……なのかな?」「あたりまえでしょ! ここまで参加したのにそこに行かないでどうすんのよ!」 カレンがなぜかやる気満々である。「それにこの件はもともとが私が持ち掛けた話でもあるし、私は最後まで付き合うわよ」 そのカレンに響子も続く。 理央も伊織も「もちろん!」って顔してる。「わかった。みんなありがとう」 立ち上がって、ペコっと頭をさげた。 頭を上げたのと同時ぐらいにカレンが手帳を出して何かを確認し始めた。「そうと決まれば早い方がいいよね。じゃぁ明日決行よ!!」 その一言に俺はあきれたのだが、不思議と否定の声が上がることなくそのまま確定した。集合場所や時間。移動手段や費用の話までが次々と決められていく。 もちろん俺はただそれを横目に聞きながらコーヒーをすするだけだった。「じゃ、これで決まりでいいよね、シンジ君」「ぶふぅ!!」 いきなり話を振られた俺はコーヒーをちょっと噴き出した。それを伊織が黙って布巾でふきふきしてくれた。ありがとう伊織、さすが我が義妹《いもうと》だって心で思う。 そしてみんなの視線が俺に集まる。「な、なんで俺に聞くの?」「何言ってんの? シンジ君がリーダーでしょ?」 うんうんとみん
正晴の言葉に驚愕して体から負のオーラが出そうになった時、言葉と同時に鉄拳が正晴に飛んでいた。「ちょっと、正晴!! この藤堂クンが前に言ってた人だよ!!」――かなり強めに突っ込まれてたけど痛そうだなぁ……。 しかしこの二人、くっついたり別れたりしているだけあってさすがに仲がいいし。ぎこちなさが無い。「え? 真司が!?」 どんな話されたのかは分からないけど、この子も相手が男だとは伝えてなかったみたいだな。 さりげなく会話するふりをしながら、俺は正晴の様子をうかがう。遠野と妻野のカレシは影響が出ていると言っていたから、目の前の、正晴にも出ていると思ったからだ。しかしそんな気配は感じられなかった。 それとは別に三和の方は――。「何だよ真司、それならそうと昔から言ってくれりゃいいのに」 真顔でそういう正晴に俺は苦笑いで返した。「言えるわけないだろ……そんな事」 二人がカレン組の方へ腰を下ろしてようやく始まりの盛り上がりは落ち着いた。「三和さん体調良くないんですか?」 俺の隣で静かにホットチョコレートを飲んでいた伊織が[三和]の方を見て話しかけた。「ええ、その……わかりますか?」 皆がうなずいた。「最近少しづつですけどダルさとか出て来ていて、アレはまだ見えてるし。声まで聞こえるようになってしまって」「あの二人はどうなの?」「それが、響子ちゃんからあの湖に行って来たって連絡あった日から、そういうのは全然なくなったって言ってて。私だけいまだに続いてるの」 響子の問いかけにも疲れている感じに答える。――少し解決を急いだほうがいいかもしれない。 俺の心がそう言い始めてる気がする。「すいません三和さん、聞きたいことがあるんですが、その現象が現れた日は1人でそこに行ったわけじゃないですよね?」「え? ええ、そうです」
座ってしばらくは静かな時間が流れる。 腰を下ろしてからも伊織がしたを向いたままなのだ。 一つため息をついて、バッグから水のペットボトルを2本取り出して1本を伊織に渡す。「ありがとう」って受け取ってくれた。「伊織、話があるんだろ?」「あ、うん……そうなんだけど、ちょっと聞きづらいというか……」「何だ? 別にお兄ちゃんは伊織に隠してる事なんてないぞ? あ……あれか? あれの事か?」「あ、あれって何? そっちも気になるんだけど!!」「え? あ、いや、知らないなら別に、うん」 何かかみ合わない会話が続く。 急に正面を向いた伊織が胸の前で祈る様なポーズを作る。「お、お義兄ちゃんあのね!!」「お、おお。なに?」「お義兄ちゃんってカレンさんの事が好きなの? もしかして、つ、付き合ってるとか……?」――義妹《いもうと》からとんでも発言きたぁぁぁぁ!!「ぶふぅっ!!」 飲もうとしていた水を思いっきり吐き出した。「ゲホゲホッ!! ガホッ!!」「だ、大丈夫お義兄ちゃん!!」「だ、大丈夫……。つーか、なんてこと聞くんだよ」「だって……仲いいんだもん。カレンさんとお義兄ちゃん」 もじもじとしだした伊織。こういうところは女子だなぁて思える。「ああっと、カレンとは何でもない!! カノジョとかでもないぞ? まぁしいて言うなら、ケンカ友達の一人かなぁ……?」「そ、そう!」 途端に伊織の表情が明るくなったような気がする。――なんか鼻歌みたいなのも聞こえるし最近情緒不安定すぎじゃないか?「友達……か」「ン? なぁに?」 無意識にあの女子組三人を友達というくくりで呼んでしまった自分に少し違和感を覚えた。少し前の自分には考えら
「あ~!!」 湖からの帰り道。 理央のから離れたモノの影響を考えて少し時間を休ませてから来た道を歩いている。その中で俺の前を歩いていたカレンの突然の咆哮である。もちろん皆がビクッとした。林にいた鳥もバサバサと飛び立つ。「な、なんだよカレン!! ビックリするだろ!!」「思いだした!!」「何を?」 皆の視線がカレンに集中する。「あの人が言っていた秋田真由美って名前ね、どこかで聞いた事があるなぁって思ってたんだけど」「だけど?」「話のなが~~~いおばあぁちゃん家で聞いたよ!!」「「「えええぇ!!」」」「な、なんで言わないんだよ!!」「だって、今思い出したんだし、それに話が長くて今まで忘れてたんだもん」――やっぱりカレンはポンコツお嬢だと思う。ステージの上のカレンとは別人だ。 浜辺で話した幽霊である秋田真由美は、今まで会ってきたモノの中でも、表現が合ってるかはわからないけどいい人だった。 だから素直に話を聞いたのだが、彼女はただ静かにいたいだけなのだと言っていた。自分はここから離れてはいけないのだと。 そしてここ最近の湖周辺での事故や事件にはかかわっていない。別のモノがしているのだとも言っていた。 ならば俺たちはまた別の方向からこの件を考えなくてはならないだろう。「『今までしたことはあの子たちには申し訳ないと思ってるわ。もうあの子たちには影響しないし、これかも他の方々にはしないわ。約束する』」 真由美はそう言ってくれたのだ。俺はそれを信じたいと思う。「これからどうするの?」 てくてく歩きながらカレンが問いかける。「うん、あの人の言う事を信じるならまずはこの件を調べ直さなきゃいけないと思う」「そうね。中に入られてた私が言う事じゃないかもだけど、あの人、嘘は言ってなかった感じがしたわ」 身体を使われていた理央が少しダルそうな体を振り向かせて共感してくれた。「それに、気になることも言ってたし」「そうなの?」
ソコは静かな水面に不釣り合いなくらいすごく空気が重かった。 湖に近づくにつれて雰囲気は悪くなり、それまでははしゃぐ声も聞こえていた女子組からも、その声は小さくなり聞こえなくなった。「着いた……みたいだけど、みんな体調悪くなったりしてないか?」 振り返って確認すると、みんな声は出さずにコクンとうなずくだけで返事する。 ここにいる人達はみんな一度はソレを経験して、ここの空気が重い事を感じているみたいだ。「それで、ここでどうするの?」「えと、水に入った後で皆さん変わってしまったと言ってました」 カレンと伊織が荷物を置いて浜を降りていく。「あ、待って待って」「やる時はみんな一緒にだよぉ~」 市川姉妹もその後に続く。 俺も急いで荷物を置きみんなのいる場所へと向かった。「せぇのぉ~三、二、一、はい!!」 ぽちゃっ ドボンっ ちゃぷ いろいろな方法でいろいろな個所を各々が湖に体をつける。 そのまま五分。「よし、みんな湖からいったん離れてくれ」「はぁーい」—―なんかこういう時みんな素直に従ってくれるんだよね。やりやすいからいいんだけど。なんかくすぐったい感じがするなぁ。「どう? 何か変わったりした人いるかな?」 女の子四人で顔を見合わせている。 俺が見たところ変わった様子は無いみたいだけど油断はできない。「そういえばさぁ……。私達って誰もカレシいないんじゃなかったっけ? これって検証になるの?」「いや、その検証も大事だけど、俺はこの場所を見たくなったんだよ」「へぇ~、どうして?」 こちらに振り返った響子に聞かれる。 カレンの言った事は間違いなくその通り、カレシも彼女もいない俺達ではソノ検証は出来ない。それは知っていた。なのに響子からの疑問[なぜ来たかったのか]に